2020年6月10日
岩手日報 2面
マイナンバーひも付け 1口座
交付16%、普及悩む自治体
 マイナンバー制度は2016年1月の運用開始から4年半近くがたった。カードを使った住民票のコンビニ交付が可能となり、政府が預貯金口座とのひも付け義務化を検討するなど、利用分野拡大の動きが進む。ただ、総務省によると全国のカード交付率は5月1日時点で約16%と低迷。現場を受け持つ自治体は、制度普及と活用促進に頭を|悩ませる。
 交付率が約36%と全国の市と特別区のうちトップの宮崎県都城市では、職員が企業に出向いて顔写真を撮影するなど申請を手伝い、カード取得を促進。徳島県庁では職員証としてカードの利用を認め、 部で入退室管理などもしている。しかし、交付率が全国平均を下回る約10%の高知県の担当者は「日常生活で使う場面が少なく、住民にはなかなか浸透しない」と頭を抱える。
 政府は今後、官民問わず活用分野を広げ普及を促す方針。21年からは健康保険証としてカード利用も計画している。一方で情報漏えいへの懸念は強い。制度を巡る9日の金沢地裁判決では、漏えい防止のため、システムや法律で「種々の措置を講じており、不備があるとは認められない」としたが、会計検査院の検査では複数の自治体の端末で個人情報を外部に持ち出せる状態になっており、セキュリティー対策が不十分なことが今年1月に判明した。
 また、国が新型コロナウイルス対策として国民に10万円を配る特別定額給付金で、カード所有者を対象に始めたオンライン申請では、トラブルが続出、受け付けを休止する自治体が出るなど不備が指摘される。
 一般財団法人 情報法制研究所理事長で新潟大の鈴木正朝教授(情報法)は「制度の不備が残り、不安が生まれるという悪循環にある。自身の個人番号が利用された履歴を国民が把握できるなど整備すれば不安は払拭されるだろう」と述べた。
政府、義務化で方針
 高市早苗総務相は9日の衆院予篇委員会で、災害時などの現金給付のため検討しているマイナンバーと預貯金口座のひも付け義務化に関し、1口座だけを対象とする方針を明らかにした。個人が持つ全ての口座の登録義務化は、国民の資産状況への監視が強まるとの懸念に配慮し,
見送る。
 一方、希望者には任意で複数口座の登録を認める。災害などで預貯金通帳を紛失したり、相続を受ける際に亡くなった家族の口座が確認できなかったりした場合にスムーズに口座情報を把握できるようにする狙い。
 関連法改正案を来年の通常国会に提出する方向だ。マイナンバーと口座情報のひも付けで、給付の際、自治体が口座を把握する手間が省け、手続きが迅速化できる。全口座情報を登録することで税の徴収や生活保護の支給判定を効率化するとの議論も政府内にはあるが、実現はさらに遠のく。
 高市氏は「―口座のみマイナンバーを付番して登録していただく制度に発展させることができればプッシュ型の給付や行政コストの削減が可能になる」と強調した。
 新型コロナウイルス対策として全国民に10万円を配る「特別定額給付金」は事業開始から1ヵ月以上過ぎているが、総務省の最新集計では全世帯の約3割への給付にとどまる。遅れの背景には、政府や自治体が振込先の口座を事前に把握できていないことがある。
 自民、公明、日本維新の会の3党は8日、本人の同意を前提として、マイナンバーを活用して政府による現金給付を迅速化するための法案を国会に提出した。他の野党から賛同を得られる見通しが立っておらず、今国会での成立は困難な情勢だ。